日本の農村集落の象徴

NPO法人いろりでは、茅葺き民家の保全を活動の中心にすえています。茅葺きの家は「伝統的な農村風景」を象徴する重要なアイテムですが、維持管理に高額な費用がかかることから、全国各地で減少しています。「日本の農山漁村および伝統的な町並み、住居の保全・再生」を活動目的とする当法人にとって、茅葺き民家の保全は、優先的に取り組むべき課題だと考えています。

茅場と茅手が守る家

茅はススキ、チガヤ、スゲなどの総称です。これらの草で屋根を葺いた家は縄文時代から存在したと考えられ、日本のみならず世界各地で見ることができます。

茅の供給源が「茅場」です。茅場は自然の群生地ではなく、人の手が入ることによって維持されます。茅葺き民家が減り、茅場の需要がなくなると、またたく間に茅場は失われてしまいます。

また、屋根を茅で葺く職人のことを「茅手」といいますが、同様の理由で減り続けています。茅手の高齢化や仕事場所の減少にともない、技術継承が各地で課題になっています。

茅葺き減少の理由

そもそも茅葺きの家は、なぜ減り続けているのでしょうか。

茅葺きは瓦葺きに比べると耐久性に乏しく、定期的な葺き替えが不可欠です。集落全体が茅葺きだったころは、住民総出で毎年1軒ずつ屋根を直すことができました。こうした互助の精神を「結い」といいます。

ところが1軒、また1軒と、家を新築したり、都会へ出て空き家になる家が増えるにつれ、「結い」は機能しなくなります。するとますます家を建て直したり、茅葺きのままトタンでカバーする家が増えていきます。こうして、全国で同時進行的に茅葺きの家が減っていったのです。

茅葺きの価値とは

日本に残された茅葺き集落といえば、白川郷(岐阜県)、五箇山(富山県)、美山町(京都府)、大内宿(福島県)などが主だったところでしょう。これらの集落は、どこも人気の観光地になっています。また、山里に1軒だけでたたずむ茅葺きの家が、カフェやゲストハウスとして再生された例もたくさんあります。

これらの事例は、茅葺き民家が観光資源として強力なコンテンツになり得ることを示しています。空き家となり、解体してしまうことはたやすいですが(いや、実際には産廃処理に費用と手間がかかりますが)、保全すれば、さまざまな用途に生かすことができます。NPO法人いろりでは、そのための道を模索していきたいと考えています。